伊丹敬之、加護野忠男『ゼミナール 経営学入門』(日本経済新聞社、第3版、2003)演習問題解答例

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第20章 企業という生き物、経営者の役割

1.
 技術的変換体、情報蓄積体、資金結合体という三つの側面は、企業の存在を本質的に捉えた側面であるのに対し、資源配分体という側面は、それらの副次的な効果として発生するものである。個人ではできないような技術的変換を行うためには人々を組織する必要があり、その過程で組織内の役職に伴う名誉を分配してしまっていると言える。情報を蓄積するためには個々人が得た情報を収集して整理しなければならず、その過程で必然的に情報という資源を配分していることになる。資金を集めて投資することでより大きな収益を回収するという観点からは、どれくらいを経費として従業員の給与にあて、どれくらいを収益から株主に配当するかといった分配が当然に予定されている。

2.
 日本の大企業では、大学で学んだこととは関係なく新卒で一括採用され、終身雇用が保証されることが期待されており、従業員が社内で育成されて転職が想定されていないので、企業内で新事業が生まれることになる。それに対してその人のジョブスキルに基づいて評価がなされて、よりよい評価を求めて転職するのが一般的なアメリカでは、起業の種になる蓄積を既存の大きな組織で学んでいることが多い。社内の新事業では、社内的な制約が大きくて実験を多く生むのには適していない反面、認められた事業がすぐに成果を出さなくても長期的に育成されることは容易になる。アメリカのシリコンバレーのようなメカニズムが日本で可能になるためには、能力ベースで人を評価して人材の流動性を高めることが前提条件となる。

3.
 身近な法人の経営者について分析する。その人は組織内でもめ事が起こったり起こりそうになったりしたら、できるだけ公平に理義を通じて解決にあたる。社員の現状をよく把握して、小さな気配りをするとともに、個人の自主性を尊重しつつ仕事を割り振る。思想や歴史をベースにして、大きな視野で必要とされる事業を打ち出すという戦略家でもある。行っていることをブログで積極的に発信するなどして、自分たちがしていることの意義を伝えるようにも努めている。


作成:浅野直樹
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